ペドロ・アルペ神父における「信仰と奉仕」

―現代のキリスト者への霊的インスピレーション―

1. 動かない信仰ではなく、人間の現実へと歩み出す信仰

イエズス会第28代総長ペドロ・アルペ神父(1965–1983)は、現代における「信仰のあり方」を大きく刷新した人物です。彼にとって信仰とは、保管しておく宝物ではなく、世界を変革する力でした。アルペ神父は次のように強調しています。

“There is no genuine faith without a commitment to justice.”
「正義への献身なしに、真の信仰は成り立ちません。」
(『Pedro Arrupe: Essential Writings』Orbis Books, 2004)

つまり、信仰が不正義に触れず、弱い人を支えず、社会の傷を癒さないなら、その信仰はまだ不十分だということです。アルペ神父の信仰とは、外へ向かい、かがみ込み、耳を傾け、他者の痛みに心を動かされる信仰です。

2. 奉仕とは「行動」だけでなく、「共にいる」生き方

アルペ神父にとって奉仕とは、単なる慈善活動ではありません。それは貧しい人々の側に立ち、彼らから学び、自分自身が変えられていく道です。

a. 貧しい人・排除された人を優先する

アルペ神父は明確に述べています。

“The option for the poor is not optional.”
「貧しい人々のための選択は、選択肢ではなく、必然である。」
(『Essential Writings』)

b. 助けるだけでなく、寄り添う

“To be with the poor is to allow ourselves to be evangelized by them.”
「貧しい人々と共にいるとは、彼らによって福音化されることを受け入れることである。」
(『Hearts on Fire: Praying with Jesuits』Loyola Press)

c. 行動の中心に霊的識別を置く

“There is no authentic action without prayer, and no authentic prayer that does not lead to action.”
「祈りのない行動は本物ではなく、行動へ導かない祈りも本物ではない。」
(『Essential Writings』)

祈りと行動は切り離せない。奉仕は、聖霊に耳を傾けながら行う「霊的な実践」なのです。

3. 「Men and Women for Others」―他者のために生きる人間へ

1973年、アルペ神父は教育の核心を示す歴史的な講話を行いました。その中で最も有名な言葉がこれです。

“Our prime educational objective must be to form men-and-women-for-others… men and women who cannot even conceive of love of God which does not include love for the least of their neighbors.”
「教育の第一の目的は他者のために生きる人間を育てることである。神への愛に、最も小さな隣人への愛が含まれないなどということを、想像すらできない人間を育てることである。」
(“Men for Others,” 1973年、バレンシア講話)

これは単なるスローガンではなく、霊性そのものです。

  • 不正義に敏感な良心
  • 社会を批判的に読み解く力
  • 弱い人のために責任を負う姿勢

信仰とは「神を信じること」だけでなく、小さな人々への愛を通して神を生きることなのです。

4. 今日の教会におけるアルペ精神の実践

アルペ神父の精神は、現代の教会においても非常に重要です。

a. 典礼中心ではなく、癒しの場としての教会

教会は典礼を行う場所であると同時に、「野戦病院」のように傷ついた人が癒しを見いだす場所であるべきです。

b. 若者司牧:教えるより、聴くこと

若者が求めているのは:

  • 心理的な支え
  • 人生の意味を探す伴走者
  • 自分を信じてくれる大人

c. 教会の広報・メディア:真理と憐れみの証し

アルペ神父はこう警告します。

“Our mission is not propaganda but witness—witness to truth, justice, and compassion.”
「私たちの使命はプロパガンダではなく、証しである――真理、正義、そして憐れみの証しである。」
(『Essential Writings』)

教会のメディアは宣伝ではなく、

  • 真実を語り
  • 声なき人の声を届け
  • 分断や攻撃を避ける

そのような「福音的コミュニケーション」が求められています。

5. 世界を変える信仰へ

アルペ精神を一言でまとめるなら、こう言えるでしょう。

「信仰が世界をより人間的にしないなら、それはまだ本物の信仰ではない。」

私たちは招かれています。

  • 支える手
  • 外へ向かう足
  • 他者の痛みに震える心
  • 小さな人の中にキリストを見つける眼差し

そのすべてをもって、信仰を生きるように。

参考文献

  1. Pedro Arrupe: Essential Writings, Kevin Burke, SJ 編, Orbis Books, 2004
  2. Men for Others(1973年、バレンシア講話)
  3. Hearts on Fire: Praying with Jesuits, Loyola Press
  4. イエズス会国際本部公式サイト: https://www.jesuits.global

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